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京都地方裁判所 昭和28年(わ)1376号 判決 1958年12月26日

被告人 丸山辰夫 外一一名

主文

一、被告人丸山辰夫を懲役八月に、

被告人七里藤逸を懲役四月に、

被告人細井嘉四郎を懲役六月に、

被告人岩前政昭を懲役八月に、

被告人吉本喜春を懲役四月に、

被告人垂井久を罰金四万円に、

被告人並川八郎を罰金三万円に、

被告人中西順三郎を罰金三万円に、

被告人中北信二を罰金五千円に、

被告人櫟信夫を罰金五千円に、

被告人鳥居好雄を罰金一万円に、

それぞれ処する。

二、被告人丸山辰夫、同七里藤逸、同細井嘉四郎、同岩前政昭及び同吉本嘉春に対し、各二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

三、被告人垂井久、同並川八郎、同中西順三郎、同中北信二、同櫟信夫、及び同鳥居好雄において、その各罰金を完納することができないときは、各金五百円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

四、被告人丸山辰夫より金三万円を、

被告人細井嘉四郎より金一万九千円を、

被告人岩前政昭より金四万二千五百六十八円を、

被告人吉本喜春より金一万三千二百三十円を、

それぞれ追徴する。

五、訴訟費用中、証人阿部延義に昭和三十年三月三日、同伊藤観亮に同月十日各支給した分は被告人細井嘉四郎の負担とし、証人東野恭一に昭和二十九年六月十八日、同阿部延義及び同伊藤観亮に各昭和三十年三月十七日支給した分並びに証人村上新一、同平田一雄に各支給した分は被告人岩前政昭の負担とし、証人知野見哲雄に昭和三十年五月十九日支給した分は被告人吉本喜春の負担とし、証人奥山秀夫に支給した分は被告人垂井久の負担とし、証人細井嘉四郎、同岡部英夫に各支給した分及び証人中川昌太郎に昭和二十九年三月十九日、同年五月十二日各支給した分は被告人櫟信夫の負担とし、証人中川昌太郎に昭和二十九年六月十八日及び昭和三十二年二月二十一日各支給した分並びに証人太田丈夫、同中村和市に各支給した分は、被告人細井嘉四郎、同櫟信夫の連帯負担とし、証人知野見哲雄に昭和二十九年六月十一日支給した分は被告人丸山辰夫、同七里藤逸、同垂井久の連帯負担とし、証人赤島ヒサノに支給した分は被告人並川八郎、同中西順三郎、同中北信二の連帯負担とし、証人田宮正夫に支給した分のうち、昭和二十九年五月二十一日支給の分は被告人岩前政昭、同吉本喜春、同並川八郎の、又昭和三十年十一月十日支給の分は被告人丸山辰夫、同七里藤逸、同細井嘉四郎、同岩前政昭、同吉本喜春、同垂井久、同並川八郎の各連帯負担とし、証人三原輔一に支給した分及び証人杉本達枝に昭和三十二年二月二十一日、同年九月二十四日各支給した分は被告人細井嘉四郎、同垂井久、同並川八郎、同櫟信夫の連帯負担とし、証人杉本達枝に昭和三十三年三月二十四日支給した分は被告人細井嘉四郎、同並川八郎、同櫟信夫の連帯負担とし、証人梅田三郎、同能勢美恵喜、同吉川芳郎に支給した分は被告人西川一雄以外の被告人十一名の連帯負担とし、証人東井檜三郎に支給した分は被告人岩前政昭、同吉本喜春、同並川八郎、同中西順三郎、同中北信二の連帯負担とし、証人矢守竜一、同沢田久夫に各支給した分は被告人細井嘉四郎、同岩前政昭、同吉本喜春、同中西順三郎、同中北信二、同櫟信夫の連帯負担とし、証人永井大一郎に支給した分は被告人細井嘉四郎、同岩前政昭、同並川八郎、同中西順三郎、同中北信二の連帯負担とし、証人白数愈に支給した分は被告人岩前政昭、同並川八郎、同中西順三郎、同中北信二の連帯負担とする。

六、(イ) 被告人丸山辰夫及び同七里藤逸は、同被告人等が共謀の上、被告人丸山辰夫の職務に関し、

(1)  昭和二十七年九月九日頃、被告人西川一雄から、請託を受け、賄賂として額面二万二千六百三十円の小切手一通を収受したとの点、及び、

(2)  同年十二月下旬頃、被告人並川八郎から、請託を受け、同被告人をして、賄賂として、被告人丸山辰夫が漬物店大芳こと村上正三郎に対して負担する漬物代金債務一万九千三百三十円を代払させ、財産上の利益を得たとの点

につき、いずれも無罪。

(ロ) 被告人細井嘉四郎は、同被告人が、その職務に関し、

(1)  昭和二十五年十一月九日頃、被告人垂井久から、請託を受け、賄賂として現金三千円を収受したとの点、及び、

(2)  昭和二十七年八月頃、被告人並川八郎から、請託を受け、賄賂として、額面二千円の大丸商品券一枚を収受したとの点

につき、いずれも無罪。

(ハ) 被告人岩前政昭は、同被告人が、その職務に関し、

(1)  昭和二十六年四月頃、被告人中西順三郎から、請託を受け、賄賂として、現金五千円を収受したとの点、

(2)  昭和二十七年八月頃、被告人並川八郎から、請託を受け、賄賂として、額面二千円の大丸商品券一枚を収受したとの点、及び、

(3)  昭和二十八年七月四日頃、被告人櫟信夫から、請託を受け、賄賂として、二千九百七十五円相当の酒食の饗応を受けたとの点

につき、いずれも無罪。

(ニ) 被告人垂井久は、同被告人が、昭和二十五年十一月九日頃、被告人細井嘉四郎に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、現金三千円を供与したとの点につき、無罪。

(ホ) 被告人並川八郎は、同被告人が、

(1)  昭和二十七年十二月下旬頃、被告人丸山辰夫並びに被告人七里藤逸に対し、被告人丸山辰夫の職務に関し、請託をなし、賄賂として、同被告人が漬物店大芳こと村上正三郎に対して負担する漬物代金債務一万九千三百三十円を代払し、財産上の利益を与えたとの点、

(2)  昭和二十七年八月頃被告人細井嘉四郎に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、額面二千円の大丸商品券一枚を供与したとの点、及び

(3)  同月頃、被告人岩前政昭に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、額面二千円の大丸商品券一枚を供与したとの点

につき、いずれも無罪。

(ヘ) 被告人中西順三郎は、同被告人が、

(1)  昭和二十六年四月頃、被告人岩前政昭に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、現金五千円を供与したとの点、

(2)  被告人中北信二と共謀して、昭和二十七年十二月頃被告人吉本喜春に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、額面二千円の大丸商品券一枚を供与したとの点

につき、いずれも無罪。

(ト) 被告人櫟信夫は、同被告人が、昭和二十八年七月四日頃、被告人岩前政昭に対し、同被告人の職務に関し、請託をなし、賄賂として、二千九百七十円相当の酒食の饗応をなしたとの点につき、無罪。

七、被告人西川一雄は、無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人丸山辰夫は、農林省京都食糧事務所所長として、指定倉庫業者(政府所有の主要食糧を保管せしむべき倉庫業者として政府よりその指定を受けたものをいう。以下同じ)に対する政府所有の主要食糧の保管の割当、その保管設備、保管状況等の調査指導、監督、指定製粉加工業者(政府所有の小麦の製粉加工をなさしむべき業者として政府よりその指定を受けたものをいう。以下同じ)に対する政府所有小麦の製粉加工の委託の割当、その製品の調査監督、食糧庁に対する右加工歩留率の軽減方の具申、指定倉庫業者及び指定製粉業者に対する損害賠償の請求を含む同事務所所掌の事務一切を総括すべき職務に従事していたもの、

被告人七里藤逸は、右京都食糧事務所庶務課長の職にあつたもの、

被告人細井嘉四郎は、右京都食糧事務所業務部出納課長として、指定倉庫業者の保管能力、設備等の調査、並びにこれら業者に寄託された政府所有の主要食糧の保管状況の調査、監督等の職務に従事していたもの、

被告人岩前政昭、同吉本喜春は、いずれも、右京都食糧事務所業務部輸入食糧課運送係員として、指定倉庫業者に対する政府所有の主要食糧の保管の割当等に関する事務を処理すべき職務に従事していたもの、

被告人垂井久は、指定倉庫業者である舞鶴倉庫株式会社の取締役社長、

被告人並川八郎は、指定倉庫業者である株式会社中央倉庫の食糧課長、

被告人中西順三郎は、指定倉庫業者である京都罐詰倉庫株式会社の代表取締役、

被告人中北信二は、右京都罐詰倉庫株式会社の京都出張所所員、

被告人櫟信夫は、指定倉庫業者である伏見倉庫株式会社の支配人、

被告人鳥居好雄は、指定倉庫業者である京都府経済農業協同組合連合会の食糧課長であつたところ、

第一、被告人丸山辰夫、同七里藤逸は共謀の上、

一、昭和二十七年十一月頃、京都市中京区富小路二条上る農林省京都食糧事務所において、被告人垂井久から、前記舞鶴倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当その他右保管に関する諸般の事務につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で被告人丸山辰夫に供与されるものであることを知りながら、現金三万円の贈与を受け、以て被告人丸山辰夫の前記職務に関し賄賂を収受し、

二、さきに、被告人丸山辰夫において、指定製粉加工業者である大倉製粉株式会社、日本農産製粉株式会社、井沢産業株式会社に対し政府所有の輸入小麦合計五百五十トンの製粉加工を委託したところ、右三社から、同小麦が虫害品であるため、所定の加工歩留率によるときには、多額の損害金を政府に賠償しなければならないこととなるから、右歩留率の軽減その他適宜の方法により右三社の負担すべき損害金の軽減方を図られたい旨の依頼を受けて、これを承諾し、右小麦の元の保管者である大阪食糧事務所管下の倉庫業者と同事務所を介して交渉した結果、それら倉庫業者をして虫害による損害金として六十万円を支出させ、これを右三社に交付することにより、歩留率の軽減の方法に代え、右三社の負担すべき損害金を実質的に軽減する措置をとつたが、同年十二月中旬頃、前記食糧事務所において、右大倉製粉株式会社代表取締役九鬼菊太郎、日本農産製粉株式会社代表取締役木村徳次郎、井沢産業株式会社代表取締役井沢友一の三名から、被告人丸山辰夫が右三社のため右の如き損害軽減の措置をとつたことに対する謝礼の趣旨で右京都食糧事務所に贈与されるものであることを知りながら、現金二万二百五十円を同事務所のため受取り、以て被告人丸山辰夫の前記職務に関し請託を受けて同事務所に賄賂を供与させ、

第二、被告人細井嘉四郎は、

一、昭和二十七年四月頃、前記京都食糧事務所において、被告人櫟信夫から、前記伏見倉庫株式会社が寄託された政府所有の主要食糧の保管状況の調査、監督につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金三千円の贈与を受け、

二、前記舞鶴倉庫株式会社の常務取締役阿部延義から、同社が寄託された政府所有の主要食糧の保管に関し前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、

(イ) 昭和二十七年九月頃、舞鶴市余部上一丁目千百五十五番地旅館亀朝館において、現金三千円の贈与を受け、

(ロ) 同年十二月頃、前記京都食糧事務所において、現金五千円の贈与を受け、

三、指定倉庫業者である京神倉庫株式会社の倉庫係長伊藤観亮から、同社が寄託された政府所有の主要食糧の保管に関し前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、

(イ) 昭和二十七年七月頃、京都市上京区今小路通七本松西入る二丁目東今小路町千四番地の自宅において、現金三千円の贈与を受け、

(ロ) 同年十二月末頃、右同所において、現金三千円の贈与を受け、

四、昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、被告人並川八郎から、前記株式会社中央倉庫が寄託された政府所有の主要食糧の保管に関し前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚の贈与を受け、

以てそれぞれ自己の前記職務に関し賄賂を収受し、

第三、被告人岩前政昭は、

一、被告人中西順三郎、同中北信二の両名から、前記京都罐詰倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当事務につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、

(イ) 昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚の贈与を受け、

(ロ) 昭和二十七年八月初旬頃、右同所において、株式会社大和銀行祗園支店発行額面三千円の贈答用小切手(ギフトチエツク)一枚の贈与を受け、

(ハ) 同年十一月頃、右同所において、現金一万円の贈与を受け、

二、前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、昭和二十七年十一月二十五日頃、京都市左京区南禅寺鳥居口町五十番地旅館おなかこと赤島ヒサノ方において、被告人中西順三郎、同中北信二の両名から、七百五十円相当の飲食の饗応を受け、更に犯意を継続して、同日、同市東山区高台寺南門南町料理旅館松葉亭こと畦地くら方において、被告人中北信二から、三千百八十円相当の飲食遊興の饗応を受け、

三、被告人並川八郎から、前記株式会社中央倉庫に対する主要食糧の保管の割当事務につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、

(イ) 昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚の贈与を受け、

(ロ) 同年八月上旬頃、京都市左京区南禅寺鳥居口町五十番地旅館松風園こと赤島ヒサノ方において、三千百八十円相当の飲食遊興の饗応を受け、

(ハ) 昭和二十七年七月四日頃、同市東山区古門前通大和大路東入旅館富乃井において四千九百八十円相当の飲食遊興の饗応を受け、

(ニ) 同年十一月十日頃、右同所において、三千二十五円相当の飲食遊興の饗応を受け、

四、昭和二十七年十二月二日頃、右同所において、前記株式会社中央倉庫の作業課長村上新一から、前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、三千七百四十円相当の飲食遊興の饗応を受け、

五、昭和二十八年一月二十八日頃、右同所において、前記伏見倉庫株式会社の社員東野恭一から、同会社に対する主要食糧の保管の割当事務について有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、六千七百十三円相当の飲食遊興の饗応を受け、

以て、それぞれ自己の前記職務に関し賄賂を収受し、

第四、被告人吉本喜春は、

一、昭和二十七年八月頃、前記京都食糧事務所において、被告人中西順三郎、同中北信二の両名から、前記京都罐詰倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当事務につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚の贈与を受け、

二、前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、同年十一月二十五日頃、前記旅館おなかにおいて、被告人中西順三郎、同中北信二の両名から、七百五十円相当の飲食の饗応を受け、更に犯意を継続して、同日、前記旅館松葉亭において、被告人中北信二から、三千百八十円相当の飲食遊興の饗応を受け、

三、同年十二月頃、前記京都食糧事務所において、被告人中北信二から、前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚の贈与を受け、

四、被告人鳥居好雄から、前記京都府経済農業協同組合連合会に対する主要食糧の保管の割当事務につき有利便宜な取扱をして貰いたいとの趣旨で供与されるものであることを知りながら、

(イ) 昭和二十七年十月七日頃、京都市東山区祗園八坂鳥居前下る下河原町四百九十八の一貸席森喜美こと森きみ方において、四千三百円相当の飲食遊興の饗応を受け、

(ロ) 昭和二十八年四月八日頃、同市左京区粟田口鳥井口町三十九番地旅館山菊こと今井きく方において、千円相当の飲食の饗応を受け、

以て、それぞれ自己の前記職務に関し賄賂を収受し、

第五、被告人垂井久は、昭和二十七年十一月頃、前記京都食糧事務所において、被告人丸山辰夫に対し、第一の一記載の趣旨で、現金三万円を贈与し、以て同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

第六、被告人並川八郎は、

一、昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、被告人細井嘉四郎に対し、第二の四記載の趣旨で、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚を贈与し、以て同被告人の職務に関し賄賂を供与し、

二、被告人岩前政昭に対し、第三の三記載の各趣旨で、

(イ) 昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚を贈与し、

(ロ) 同年八月上旬頃、前記旅館松風園において、三千百八十円相当の飲食遊興の饗応をなし、

(ハ) 昭和二十七年七月四日頃、前記旅館富乃井において、四千九百八十円相当の飲食遊興の饗応をなし、

(ニ) 同年十一月十日頃、右同所において、三千二十五円相当の飲食遊興の饗応をなし、

以てそれぞれ同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

第七、被告人中西順三郎、同中北信二は、共謀の上、

一、被告人岩前政昭に対し、第三の一記載の各趣旨で、

(イ) 昭和二十六年八月頃、前記京都食糧事務所において、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚を贈与し、

(ロ) 昭和二十七年八月初旬頃、右同所において、株式会社大和銀行祗園支店発行額面二千円の贈答用小切手(ギフトチェツク)一枚を贈与し、

(ハ) 同年十一月頃、右同所において、現金一万円を贈与し、

以てそれぞれ同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

二、昭和二十七年八月頃、右同所において、被告人吉本喜春に対し、第四の一記載の趣旨で、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚を贈与し、以て同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

第八、被告人中西順三郎は、被告人中北信二と共謀の上、昭和二十七年十一月二十五日頃、前記旅館おなかにおいて、被告人岩前政昭、同吉本喜春の両名に対し、それぞれ第三の二及び第四の二記載の各趣旨で、各七百五十円相当の飲食の饗応をなし、以て被告人岩前政昭、同吉本喜春の各職務に関しそれぞれ賄賂を供与し、

第九、被告人中北信二は、

一、被告人岩前政昭、同吉本喜春の両名に対し、前同様の各趣旨で、まず、被告人中西順三郎と共謀して、昭和二十七年十一月二十五日頃前記旅館おなかにおいて、各七百五十円相当の飲食の饗応をなし、次いで、犯意を継続し、単独で、同日前記旅館松葉亭において、各三千百八十円相当の飲食遊興の饗応をなし、以て被告人岩前政昭、同吉本喜春の前記各職務に関しそれぞれ賄賂を供与し、

二、同年十二月頃、前記京都食糧事務所において、被告人吉本喜春に対し、第四の三記載の趣旨で、株式会社大丸発行額面二千円の商品券一枚を贈与し、以て同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

第十、被告人櫟信夫は、昭和二十七年四月頃、前記京都食糧事務所において、被告人細井嘉四郎に対し、第二の一記載の趣旨で、現金三千円を贈与し、以て同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し、

第十一、被告人鳥居好雄は、被告人吉本喜春に対し、第四の四記載の各趣旨で、

一、昭和二十七年十月七日頃、前記貸席森喜美こと森きみ方において、四千三百円相当の飲食遊興の饗応をなし、

二、昭和二十八年四月八日頃、前記旅館山菊こと今井きく方において、千円相当の飲食の饗応をなし、

以てそれぞれ同被告人の前記職務に関し賄賂を供与し

たものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人丸山辰夫、同七里藤逸の判示第一の一の所為はそれぞれ刑法第六十条、第百九十七条第一項前段に、判示第一の二の点はそれぞれ同法第六十条、第百九十七条の二に、各該当するところ、以上は各被告人につき同法第四十五条前段の併合罪であるから、いずれも同法第四十七条本文、第十条に則り、犯情重いと認める判示第一の一の罪の刑にそれぞれ法定の加重をなした刑期範囲内で被告人丸山辰夫を懲役八月に、被告人七里藤逸を懲役四月に、各処し、

被告人細井嘉四郎の判示第二の各所為、被告人岩前政昭の判示第三の各所為、被告人吉本喜春の判示第四の各所為は、それぞれ刑法第百九十七条第一項前段に該当するところ、右は各被告人についてそれぞれ同法第四十五条前段の併合罪であるので、いずれも同法第四十七条本文、第十条を適用して被告人細井嘉四郎に対しては判示第二の二の(ロ)の、被告人岩前政昭については判示第三の一の(ハ)の、被告人吉本喜春については判示第四の四の(イ)の、それぞれ犯情の最も重いと認める罪の刑に法定の加重をなした各刑期範囲内で、被告人細井嘉四郎を懲役六月に、被告人岩前政昭を懲役八月に、被告人吉本喜春を懲役四月に、各処し、

被告人垂井久、同並川八郎、同中西順三郎、同中北信二、同櫟信夫、同鳥居好雄の判示各贈賄の所為は、各刑法第百九十八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条(共犯にかゝるものについては、なお刑法第六十条)に該当するところ、判示第八及び第九の一の点は、それぞれ一個の所為にして二個の罪名に触れる場合であるから各刑法第五十四条第一項前段、第十条に則り、それぞれ犯情重いと認める被告人岩前政昭に対する贈賄の罪によつて処断することとし、これら被告人六名の各罪につきいずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上は各被告人につき、それぞれ同法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので、いずれも同法第四十八条第二項を適用して各罪につき定められた罰金額を合算し、その各金額範囲内で被告人垂井久を罰金四万円に、被告人並川八郎、同中西順三郎を各罰金三万円に、被告人中北信二、同櫟信夫を各罰金五千円に、被告人鳥居好雄を罰金一万円に、各処し、

且つ、主文第二項につき刑法第二十五条第一項を、主文第三項につき同法第十八条を各適用し、

判示第一の一の犯行により犯人が収受した賄賂たる現金三万円は、これを没収することができないから、刑法第百九十七条の四後段によりその価額を追徴すべきところ、判示第一の一の事実の認定に供した各証拠によると、右賄賂による不正の利益については、被告人七里藤逸は全くその分配に与らず、専ら被告人丸山辰夫においてそのすべてを享受したものであることが認められるから、同被告人のみからその価額である金三万円を追徴することとし、

判示第一の二の犯行により第三者である京都食糧事務所が収受した賄賂たる現金二万二百五十円もまたこれを没収することができないところ、右法条に則りその価額を追徴すべきか否かについて案ずるのに、右現金は、同事務所の代表者である被告人丸山辰夫が、それが判示の如き趣旨の賄賂であることを知りながら、同事務所のためこれを受取つたのであるから、右現金が、一応、刑法第百九十七条の四にいわゆる「情ヲ知リタル第三者ノ収受シタル賄賂」に当ることは明らかであるが、元来、同事務所は単に国家機関たる行政官庁の一つに過ぎないのであるから、同事務所が右賄賂によつて得た利益はすべて国に帰属したものと言わなければならないと同時に、同条後段に基き同事務所よりその価額を追徴するときは、これによる損害はすべて国においてこれを負担しなければならないこととなり、結局、追徴の実施により国が賄賂による不正の利益を剥奪して自己に帰属せしめて利得すると同時にこれによる被追徴者の損害は自らこれを負担しなければならないこととなり、それ自体無意味であるばかりではなく、その実質においては、恰も刑罰権の主体である国自らが、自己に対しその刑罰権実現の手段として追徴を行うことに帰着し、現行刑罰制度上到底是認し得ないところであるから、右賄賂の価額二万二百五十円についてはこれが追徴をしないこととし、被告人細井嘉四郎、同岩前政昭、同吉本喜春に対しては各同法第百九十七条の四後段を適用して、それぞれ主文第四項掲記の通り、その収受した賄賂の価額を追徴することとし、

更に、主文第五項につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条を適用する。

(無罪の部分についての説示)

(一)  被告人丸山辰夫、同七里藤逸が共謀の上、被告人丸山辰夫の職務に関し、昭和二十七年九月九日京都市中京区壬生天池町一番地日本食糧倉庫株式会社京都支店において、指定倉庫業者である同社の京都支店長たる被告人西川一雄から、同社に対する主要食糧の保管の割当等について有利な取扱をせられたい請託のもとにその謝礼の趣旨で供与されることの情を知りながら、同社京都支店長西川一雄振出、株式会社富士銀行壬生支店宛の額面二万二千六百三十円の小切手一通の供与を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(イ)の(1)関係)、及びこれに対応する被告人西川一雄の贈賄の公訴事実(主文第七項関係)について。

指定倉庫業者である右会社の京都支店長である西川が右日時場所において被告人七里に右小切手を交付し、被告人七里がこれを受取つたことは、右被告人両名の自認するところであり(第二十四回及び第二十八回各公判調書参照)、被告人七里の右小切手の受領が同被告人と被告人丸山との協議に基くものであることも、被告人丸山及び同七里(昭和二十八年八月十一日附)の各検察官に対する供述調書により、これを認めることができる。ところで、検察官は、右小切手は、京都食糧事務所長たる被告人丸山個人に贈与されたものであると主張するのに対し、被告人等は右は同事務所へ寄附されたものであると弁護するので、案ずるに、右各証拠(摘記の公判調書を含む)と被告人丸山、同七里、証人向井一二三の当公廷での各供述(第五十四回、第五十五回各公判調書参照)、第五回、第二十回及び第二十一回公判調書中の証人関喜好、同糸井邦治、同松下正幸の各供述記載、被告人七里(昭和二十八年八月九日附)、同西川、関喜好、上野睦子、山本雅の各司法警察職員に対する供述調書、被告人西川、関喜好、糸井邦治の各検察官に対する供述調書、押収の帳簿二冊及び小切手一通(昭和二九年領置第一三五号の二、四)、会計検査院事務総局検査第三局長より京都食糧事務所長宛依頼状の写(弁甲第五号)を綜合すると、京都食糧事務所では、昭和二十七年八月下旬、約四日間にわたり、会計検査院の検査を受けることとなつたが、当時同事務所では約百万円に上る債権につき取立不能に陥つていた際でもあり、併せて他の事項についても検査の寛大を希望する下心から、連日、同院係官三名を料亭等で饗応する等他官庁の職員に対する公的のものにしては甚だしく度を越した接待をしたため、総額八万二千余円に上るその接待費の後始末にたちまち困惑し、その内約六万円については、或いは会議費の名目で所定の同事務所予算より捻出し、或いは特別集荷委託費予算を流用し、更に予て同事務所の幹部が、部内での懇親の費用や来客の接待費の補充に当てるため、支給を受けた旅費の一部を拠出し積立てておいたいわゆる部課長旅費積立金から支弁して漸くこれを賄うことができたが、残額即ち同月二十四日の宇治市所在の料理旅館花屋敷浮船園での接待費二万二千六百三十円については、右の如き資金も既に涸渇し、その支払に困却した結果、その後始末の衝に当つた被告人丸山、同七里の両名は協議の末、ここに、被告人西川に依頼して前記日本食糧倉庫株式会社よりその資金の寄附を仰ごうということになり、右被告人両名よりその旨被告人西川に懇請し、同被告人も右の事情を諒知した上でこれを承諾して本件小切手を被告人七里に交付し、同被告人は直ちにこれを右花屋敷に対する支払に当てたことが認められる。そして、この事実に徴し、且つ、本件においては、他に被告人丸山個人が自腹を切つてまで右の接待をしなければならなかつたような事情は窺われないのであるから、たとえ右の接待自体が上記のように公的のものとしては過分であつたとしても、これを以て直ちにその費用のすべてを所長である被告人丸山個人の負担とすべき理由はなく、従つて、右費用の支払に当てるために授受された本件小切手は、公務員たる被告人丸山個人に贈与されたのではなく、むしろ、同被告人の属する右京都食糧事務所自体に寄附されたものと解するのが相当である。然らば、公務員が自ら賄賂を収受した場合に関する刑法第百九十七条第一項所定の収賄罪及びこれに対応すべき贈賄罪にそれぞれ該当する事実を内容とする本件各訴因事実は、その証明がないことが明白である。なお、本件については、公務員たる被告人丸山、同七里が被告人丸山の職務に関し請託を受けて第三者たる京都食糧事務所に賄賂を供与させたものとして、同法第百九十七条の二にいわゆる第三者供賄罪及び被告人西川につきこれに対応すべき贈賄罪の成立も同一公訴事実の範囲内にあるものとして、一応問題となるので、この点につき附言すると、これらの罪が成立するためには、公務員がその職務に関し請託を受け、又はこれに対して請託をなすことを必要とし、且つこの場合請託の対象たる職務行為はある程度の具体性を有することを必要とするところ、本件についてこれをみるに、この点については、前掲の被告人丸山、同七里、同西川の検察官に対する各供述調書に、被告人西川において前記日本食糧倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当、その保管状況の調査、監督等につき将来有利な取扱いをして貰いたいとの趣旨で本件小切手を供与した旨、又被告人丸山、同七里もまたこのことを知りながらこれを受領した旨の各供述記載があるだけで、他に前記請託の存在を認めるに足る証拠がなく、しかも、右各検察官に対する供述調書によつて認め得るが如き漠然たる依頼があつたからと言うて、未だ請託があつたものとは言うことができないから、既にこの点において、本件については右第三者供賄罪及びこれに対応すべき贈賄罪が成立する余地のないことは明らかである。

(二)  被告人丸山辰夫、同七里藤逸が共謀の上、被告人丸山辰夫の職務に関し、昭和二十七年十二月下旬頃被告人並川八郎に対し、被告人丸山辰夫が京都市中京区寺町通三条上る漬物店大芳こと村上正三郎に対し負担する漬物代金等合計一万九千三百三十円の債務の支払方を依頼し、被告人並川八郎が京都食糧事務所管下の政府指定倉庫業者である株式会社中央倉庫他七社で構成する京都倉庫業者食糧協議会の幹事として、右株式会社中央倉庫他七社に対する主要食糧の保管の割当等につき有利な取扱を受けたい請託の下に其の謝礼の趣旨でこれが引受をなすことの情を知りながら其の頃被告人並川八郎をして右村上正三郎方に於て一万九千三百三十円の代金の代払をさせその債務を免れて財産上の利益を得、以て収賄した、との公訴事実(主文第六項の(イ)の(2)関係)及びこれに対応する被告人並川八郎の贈賄の公訴事実(主文第六項の(ホ)の(1)関係)について。

第二十四回、第三十一回及び第十二回各公判調書中の被告人七里、同並川、証人村上正三郎、同樫音次郎の各供述記載、被告人丸山、同七里(昭和二十八年八月十一日附)、同並川(昭和二十八年八月十五日附)の各検察官に対する供述調書、押収してある領収書納品発送伝票二通(昭和二九年領置第一三五号の一八)、同宛名控二枚(同号の一九)によれば、右日時頃、食糧庁の係官三十二名に対して、被告人丸山名義で歳暮名下に価格一人当り四、五百円程度の千枚漬が贈られ、その代金及び送料合計金一万九千三百三十円を前記京都倉庫業者食糧協議会が負担することとなり、当時同会の幹事をしていた被告人並川がその世話をして、右協議会の出捐により、漬物店大芳こと村上某にこれを支払つたことが認められる。而して、前掲各被告人の検察官に対する供述調書によれば、右千枚漬の贈物は被告人丸山個人の歳暮であり、且つ同被告人の指示に基き被告人七里よりその費用を右協議会で負担して呉れるよう同会の幹事である被告人並川に依頼し、同被告人は同会の構成員たる各社が京都食糧事務所との諸々の関係事務について有利に取扱つて貰いたいと思つてこれを承諾したことになつている。一方、被告人等は、当公判廷で(前掲各公判調書の外、第三十三回、第三十八回各公判調書中の被告人丸山、同並川の各供述記載参照)、これは被告人丸山個人の歳暮ではなく、昭和二十七年中には、例年に比して多量の主要食糧が舞鶴港に陸揚げされたため、その保管に当る京都食糧事務所管下の各倉庫業者が相当潤つたので、それらの業者が構成する右協議会では、感謝の意を表するため食糧庁係官に社交的儀礼の範囲を越えない程度の歳暮を贈ろうとの議がおこり、その結果、便宜、同食糧事務所の名を借りて、これを贈つたのであつて、右食糧庁係官に対する実際の贈り主は右協議会であり、被告人丸山、同七里は単にその仲介の労を執つたのに過ぎないと弁解する。案ずるに、昭和二十七年中には右被告人等の主張するような事情から右協議会の構成員である同食糧事務所管下の各倉庫業者が例年以上に潤つた、という事実は、被告人丸山の司法警察職員(昭和二十八年八月十四日附)及び検察官に対する各供述調書にもうかがわれ、従つて右各業者が本庁に感謝の念を抱いていたということは有りうることであり、第三十六回公判調書中にもこれに副う被告人垂井の供述記載がある。更に、前掲各証拠によれば、被告人並川と、当時一緒に同協議会の幹事をしていた樫音次郎の両名が、京都食糧事務所まで、本件千枚漬の見本を見に行つていることが認められ(右千枚漬が被告人丸山個人の贈物であるならば、被告人並川や右樫がその見本を見る必要はない)、又被告人丸山の司法警察職員に対する昭和二十八年八月十四日附供述調書及び被告人七里の当公判廷(第五十五回)での供述によれば、右協議会からの贈物である旨の記載のある添書が一緒に贈り先へ送られたような事実もうかがわれるし、被告人七里の司法警察職員に対する昭和二十八年八月九日附供述調書によれば、送り先の選定については、被告人丸山のみならず、同事務所の田宮業務部長、向井検査部長等が参画して居ることが認められる。更に、被告人丸山が個人として本件のように多数の本庁係官に中元や歳暮を贈ることを、例年、慣例としていたと認めるに足る資料もない。このような状況を綜合して判断する時、実際は前記被告人等の弁解通りであると解することも充分可能である。前掲被告人等の検察官に対する各供述調書にはこれらの状況の存在については全く考慮が払われておらず、且つ右贈物が被告人丸山の個人的な贈物であると認めるべき具体的な状況についても全くこれを記述しないで、たゞ、抽象的に、右は被告人丸山個人の贈物である旨記載されているに過ぎないのであつて、容易にこれを信用することができないし、他に本件各公訴事実を認定するに足る証拠もない。

(三)  被告人細井嘉四郎が自己の職務に関し、昭和二十五年十一月九日頃京都市下京区島原お茶屋みどりやに於て被告人垂井久から舞鶴倉庫株式会社が保管する主要食糧の保管状況の調査、監督につき有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼の趣旨で供与されることの情を知り乍ら現金三千円の供与を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(ロ)の(1)関係)、及び、これに対応する被告人垂井の贈賄の公訴事実(主文第六項の(二)関係)について。

右各公訴事実については右被告人両名とも全面的にこれを否認しているのであり(第二十五回及び第二十九回各公判調書参照)、この事実に符合する証拠は、ただ被告人両名の捜査官に対する各自白だけである。しかも、その自白も、司法警察職員及び検察官の取調を通じ、被告人両名とも、その重要な点において、殆んどその取調の都度変化しており、しかもその間時々否認の供述も混つているのであつて(被告人細井につき検甲第一〇六号、第一〇七号、第一一〇号、第一一一号、第一一四号、第一一五号、被告人垂井につき同第一四三号、第一四五号、第一四七号、第一四九号参照)、このこと自体に照らし、その信憑力については疑をさしはさまざるを得ないばかりではなく、被告人両名の右各自供を相互に対比し、更にこれらに第八回、第十三回、第十四回各公判調書中の証人知野見哲雄、同太田丈夫、同塚越幸蔵、同清水りかの各供述記載、知野見哲雄の司法警察職員に対する昭和二十八年八月五日附、検察官に対する同月十七日附各供述調書を対比すれば、本件各公訴事実に副うような記載のなされている被告人両名の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書(検甲第一〇七号、第一一〇号、第一一一号、第一一五号、第一四五号、第一四七号)の記載内容は、いずれも容易にこれを信用することができない。

(四)  被告人細井嘉四郎が自己の職務に関し、昭和二十七年八月頃、京都食糧事務所において、被告人並川八郎から株式会社中央倉庫が保管する主要食糧の保管状況の調査監督につき有利な取扱をせられたい請託の下に、その謝礼の趣旨で供与される事の情を知り乍ら、額面二千円の大丸商品券一枚の供与を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(ロ)の(2)関係)及びこれに対応する被告人並川八郎の贈賄の公訴事実(主文第六項の(ホ)の(2)関係)について。

本件各公訴事実は、被告人細井については、これを認めるに足る証拠が全くなく、被告人並川についても、同被告人の司法警察職員に対する昭和二十七年七月三十日附供述調書(被告人細井は不同意)中にこれに副う供述記載があるだけで、いわゆる補強証拠を全く欠く。

(五)  被告人岩前政昭が自己の職務に関し、昭和二十六年四月頃京都食糧事務所において、被告人中西順三郎から京都罐詰倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当につき有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼の趣旨で供与されることの情を知り乍ら現金五千円の供与を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(ハ)の(1)関係)及び、これに対応する被告人中西順三郎の贈賄の公訴事実(主文第六項の(ヘ)の(1)関係)について。

これらの点については、いずれも、これを認めるに足る証拠が全くない。

(六)  被告人岩前政昭が、自己の職務に関し、昭和二十七年八月頃、京都食糧事務所で、被告人並川八郎から、株式会社中央倉庫に対する主要食糧の保管の割当につき有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼の趣旨で供与されることの情を知り乍ら大丸商品券二千円一枚の供与を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(ハ)の(2)関係)、及び、これに対応する被告人並川八郎の贈賄の公訴事実(主文第六項の(ホ)の(3)関係)について。

被告人岩前に対する右公訴事実については、単に同被告人の捜査官に対する自白(検甲第一一九号、第一二四号)が存するだけであり、いわゆる補強証拠は、全くこれを欠く。

被告人並川に対する公訴事実については、同被告人自ら司法警察職員に対する昭和二十八年七月三十日附供述調書(検甲第一五四号)において自白をしており、又補強証拠として被告人岩前の検察官に対する同月二十八日附供述調書が存し、形式的には一応証拠が揃つている。しかし、右被告人並川の司法警察職員に対する供述調書は、同被告人が、その二日後である同年八月一日司法警察職員に対する取調においてその贈賄の日時を一年遡つた昭和二十六年七月頃であると訂正し(検甲第一五六号参照)、更に検察官に対しては本件公訴事実に符合する供述を全くしていない事跡に徴し、容易に信用し難い。残るところは、結局被告人岩前の右検察官に対する供述調書のみとなるが、該調書も、単に犯罪の構成事実を最少限度に記載したが如き甚だ簡略な記述がなされているだけで、本件商品券の授受当時の具体的状況については、全く記載されておらず、従つて、これだけでは本件公訴事実を認定するのに充分ではない。

(七)  被告人岩前政昭が、その職務に関し、昭和二十八年七月四日頃京都市伏見区東柳町五百七番地お茶屋笹谷こと笹谷むめ方において、被告人櫟信夫から、伏見倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当につき有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼の趣旨で供与されることの情を知り乍ら二千九百七十五円相当の酒色の饗応を受けて収賄した、との公訴事実(主文第六項の(ハ)の(3)関係)、及びこれに対応する被告人櫟信夫の贈賄の公訴事実(主文第六項の(ト)関係)について。

被告人岩前の検察官に対する昭和二十八年八月三十日附供述調書、第三十二回公判調書中の被告人櫟の供述記載、第四回、第九回各公判調書中の証人中川昌太郎の各供述記載、中川昌太郎の検察官に対する供述調書二通、原口松江、笹谷愛子の各司法警察職員に対する供述調書、第二十一回公判調書中の証人笹谷愛子の供述記載等によれば、右日時頃同所で、伏見倉庫株式会社の社員中川昌太郎が被告人岩前に対し、前記金額相当の飲食遊興の饗応をなし、後日同会社の支配人である被告人櫟がこれが代金を支払つた事実が認められる。ところ、前掲中川の検察官に対する供述調書には、同人の供述として「それは勿論櫟支配人から岩前さんをうまくもてなしておいてくれと云われたので実行した」との記載がされており、又、被告人櫟の検察官に対する昭和二十八年八月二十五日附供述調書には「去る七月四日と思いますが岩前さんが会社へ来ましたので中川にしかるべくやつておけと申しました」旨の供述記載がある。他方被告人櫟には当公判廷では自分は右事実を爾後に知つた丈で、仕方がないので払つてやつたものであると述べて共謀乃至は指示をした事実を否定している。(第三十二回、第三十九回各公判調書参照)而して前掲被告人岩前の検察官に対する供述調書、前掲各公判調書中の証人中川昌太郎の供述記載、前掲同人の検察官に対する供述調書二通と第六回公判調書中証人奥村光三郎の供述記載、移送前の宇治簡易裁判所での第二回公判調書中証人岩前政昭の供述記載によれば、当日、日本通運株式会社桃山支店に外米が着き、その伏見倉庫株式会社の受渡のために看貫が行われ、被告人岩前はその立会に桃山駅まで出かけ、午後三時頃一旦京都食糧事務所に帰つたところ、同会社において麻雀をしていた前記中川の外同会社々員である東野恭一や日本通運株式会社々員奥村光三郎等に呼出されたため、同日夕方再び右伏見倉庫に行き、右麻雀に加わり、それが終つた後中川に誘われるまま前記笹谷に出かけたものであるが、被告人岩前が再び同社に到るよりも前に、被告人櫟は退社したものであることが認められる。従つて、右のように、被告人岩前を麻雀に誘つたのは誰であつたかについては、各証拠が喰違つていて必ずしも明白ではないが、いずれにせよ、被告人岩前が再度同会社を訪れるについて被告人櫟が予めこのことを知つていたと認められる証拠がない本件においては、同被告人が如何なる機会に、且つ如何なる状況の下において被告人岩前に対する当夜の饗応を指示したか、具体的な記載を全く欠く前記中川、櫟の検察官に対する供述調書の記載は、到底そのまゝこれを採用することが出来ない。更に被告人櫟の前掲検察官調書では、恰も同被告人が中川等に対し、何時でも京都食糧事務所の係官に対しては贈賄するよう事前に包括的な指示を与えていたかの如き供述記載がなされているが、右検察官調書を除く前掲各証拠と被告人櫟の司法警察職員に対する昭和二十八年八月四日附供述調書とによれば、むしろ、同会社では、被告人岩前等右食糧事務所の係官が屡々同会社に押しかけて来ては飲食遊興の提供方を要求するのに困つて居り、支配人である被告人櫟においても、この点につき、中川等社員に対し常々注意を与えて居り、且つは本事実についても、判示第三の五の事実におけると同様、出来てしまつたことだから己むを得ないとして、不本意ながら、会社の出損によるものとしてその費用の支払をしてやつたものと認められるのであつて、これに反する被告人櫟の前掲検察官調書は信用できない。従つて、被告人櫟が自ら被告人岩前を饗応したことを前提とする本件各公訴事実は、結局これを認めるに足る証拠がない。

(八)  被告人中西順三郎が、被告人中北信二と共謀の上、昭和二十七年十二月頃前記京都食糧事務所において、被告人吉本喜春に対し、京都罐詰倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当について有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼とする趣旨で大丸商品券二千円一枚を供与し以て同被告人の職務に関して贈賄した、との公訴事実(主文第六項の(ヘ)の(2)関係)について。

被告人中北自身が右記載のように被告人吉本に対して賄賂を供与した事実については、判示第九の二においてこれを認定した通り、これを認めるに充分であるが、被告人中西が、被告人中北の右犯行に共謀加功したことは、これを認めるに足る証拠が全くない。

叙上の理由により右(一)乃至(八)記載の各公訴事実については、いずれも犯罪の証明がないから、刑事訴訟法第三百三十六条を適用して、当該被告人等に対し、それぞれ無罪の言渡をすることとする。

(九)  なお、被告人中西順三郎が、被告人中北信二と共謀して、昭和二十七年十一月二十五日頃、判示第三の二記載の料理旅館松葉亭において、被告人岩前政昭、同吉本喜春に対し、京都罐詰倉庫株式会社に対する主要食糧の保管の割当につき有利な取扱をせられたい請託の下にその謝礼とする趣旨で、酒色の饗応をなし、以て右両被告人の職務に関して贈賄した、との点については、被告人中北自身が、右記載のように、被告人岩前、同吉本に対し賄賂を供与したことは、判示第九の一において認定した通り、これを認めるに充分であるが、被告人中西が被告人中北の右犯行に共謀加功したことは、これを認めるに足る証拠がない。しかし、この事実は、判示第八の事実と一罪の関係にあるものとして起訴されたものと認められるから、主文において特に無罪の言渡をしない。

(裁判官 河村澄夫 岡田退一 富沢達)

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